15 よく見て下さい

 長い不況の中、苦しい経営を強いられているA社長は、みずから営業車に乗り、西へ東へ飛び回っていた。
 御得意先との約束は午後3時。
 焦っているときこそ悪いことが続くもので、バックミラーをのぞくと白バイがサイレンを流しながら、自分の車を追っかけているではないか!
 A社長は白バイに止められてしまった。
「免許証を出しなさい」
 A社長は、お巡りさんに免許証を手渡しながらこう言った。

   jal bwa ju-se-yo (よく見て下さい)

 外国語を習っていると「この単語はこういう意味だから」と言って、単純に言葉の入れ換えだけ行うと、意味が通じないばかりか、思わぬ誤解を招くときが有る。
 これを直訳という。

 韓国語で言われた「よく見て下さい」と言う単語をそのまま日本語に直訳すると「よく見て下さい」にしか想像できない。
 だけどこの場合「すいません!見逃して下さい!」と言う意味なのだ。

 すでに何度も書いていることだが、外国語とは数学のように割り切れる世界ではなく、時にはその国の歴史的背景や、どのような時に用いられるのか理解したうえでないと、本当の意味がわからない言葉も有るのだ。
 だから翻訳の時には母国語でしっくり会うような表現にしなくてはならない。
 これを「意訳」と呼ぶ。
 今回はその「意訳」の話である。

 私がよく見ている韓国ドラマに「コルベンイ(巻き貝)」と言うものが有る。
 大学を舞台にした、ラブストーリーあり、ギャグ有りのはちゃめちゃドラマなのだ。

 このドラマを紹介してくれた年配の先生曰く「ドラマはとても面白いけど、なんでこのドラマのタイトルが「巻き貝」と言うのか全然わからない」とおっしゃっていた。
 それもそのはず。
 言葉というものは時代背景などを写していて、流行語や隠語も次々に出てくる。
 韓国を離れて暮らしている先生には、そのギャップも大きいだろう。

 巻き貝を上から見ると、渦のような形になっている。
 つまり「@(アットマーク)」のことなのだ。

 まだピンと来ない方もいるだろう。
 「コルベンイ」というドラマのタイトルには「@(アットマーク)」の世代の人間ドラマ、言うなれば古い考えの人間には理解できない行動をする「新人類」が繰り広げるドラマと言った意味があるのだ。

 そういえば、この「コルベンイ」のストーリーの中で、宿題を忘れた女の子達が先生に謝るとき「カワイク見て下さい!」と言って謝っていた。
 もちろん「大目に見て下さい!」という意味のバリエーションであることは、直感的に理解できた。
 語学というものは数学のように不変では有りえない。
 だから教科書だけから出題される試験の点数だけで、語学は成り立たないときが多いと言う話。

 天の邪鬼な私が、もしお巡りさんだとして、信号無視などをした韓国人を捕まえてしまったとしよう。
 そして韓国の人が「見逃して下さい!」と言いながら免許証をだしたとしよう。
 すると「あぁ、そうですか。それじゃよく免許証を見ましょう」と「韓国語はまだ良くわからないんです」と知らん顔をして切符を切るかも知れない・・・(^_^ゞ

<01/07/29>

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