41 顎を出す

 人体とはとても不思議なもので、ちょっとした「姿勢の変化」で体内の血流も変わってくるそうだ。
 知らずしらずのうちに猫背で歩くことが癖になってしまっている人が、背筋を伸ばして歩くだけで冷え性が治ったりするそうだ。

 長い間ランニングを続けていると、疲れのために頭を上げるようになる。
 そういう時、先生は「顎を引いて走れ!」と言う。
 おそらくこれも血流に関するものではないかと思うのだが、定かではない。
 苦しいときこそ、顎を引いたほうが精神的にもがんばれるようだ。
 突然話題が変わってしまうが、昔読んだ「催眠術入門」という怪しい本では「人を催眠に掛けるとき、顎を上げさせた方が掛かりやすい」という記事を読んだことが有る。

 勉強で疲れたら猫背になったり、椅子に寄り掛かってだらしない姿勢でいるより、逆に正しい姿勢でいるほうが、精神的にも肉体的にも疲れないのだと思っている。

 さて、韓国語の面白い表現に「顎を出す」という言葉が有る。
 「顎を出す」と、いったいどんなことになるのだろうか?

後輩 「先輩!昇進決まったんですってね。おめでとうございます。」
先輩 「おー、耳が早いな。帰りに一杯やるか?!」
後輩 「一つ顎を出して下さいよ!
先輩 「ふ〜、仕方ないな。一つ顎を出してやるよ!

 このスキットを読んで、顎が「お金」だと思われた方もいるかも知れない。
 ところが「一つ顎を出す」が一つの慣用句なのだ。
 つまり「おごる」と言うことである。

   han teogeur nae-da

 日本語にも食費、交通費込みの事を「顎足つき」と表現することが有るが、無理やり結びつけようとしたら、この時の「顎」と言うものが「一つ顎を出す」の顎に近いだろう。

 ちなみに韓国には「割り勘」という考え方が無かったと聞いたことが有る。
 最近買った韓国語の単語集には割り勘にあたる単語が乗っているものの、非常に説明的な漢字語だった。
 なぜ割り勘という考え方が無いかというと、韓国人が人をもてなすことが大好きな国民性だかららしく、先輩と後輩が飲みに行ったら、先輩が後輩の分まで金を出すことが当たり前だとも聞く。

 「韓国人はとにかく人をもてなすのが好きな民族だ」という一つの例を、先生から聞かされた。
 その先生が子供の時、親戚の家に遊びに行った。
 伯母さんから「食事はしたの?」と聞かれたので「うん、食べてきたよ」と答えたそうだ。
 ところがその伯母さんは「食事ができたからお食べ」と山盛りのご飯とおかずを用意してくれたそうだ。
 確かに食事は済ませたと言ったのだが、伯母さんがせっかく食事を用意してくれたのだから、仕方なく「少しだけ食べよう」と思ったのだが、伯母さんのもてなしの心は想像以上だった。
 半分くらいご飯を食べたら、伯母さんは先生のお茶わんを取り上げ、また山盛りにしてくれたそうだ。
 さすがにその先生も。心の中で「勘弁してくれ」とつぶやいたという。

 昨年、コリアスーパーエキスポという韓国の展示会が行われたのだが、そこでCDを売っていたお兄ちゃんと知りあいになり、メールをやり取りするようになった。
 その方から「韓国に来たら一杯ご馳走するから」と書いてあった。
 このようなセリフは日本では「社交辞令」と言うが、韓国では社交辞令ではなく、いつでも大歓迎という意味らしい。
 韓国に行ったら、是非彼を訪ねてみたいと思う。

 一つ顎を出してちょ〜〜だい(^_^ゞ

<01/09/01>

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