てぇ~へんだ

先日、始めて生の落語を見た。
友人が落語を見に行くというので、何となく付きあうことにしたのだが・・・

落語には「上方落語(大阪)」というジャンルも有るが、古典落語は200年くらい前に、関東地方で使われていた言葉が中心になっている。
つまり、おおよそ江戸時代から昭和初期くらいまでの庶民の生活や、風俗に関する話しで構成されており、特に古典落語の下町の話しともなると「バリバリの江戸弁」が出てくる。

てぇ~へんだよおまいさん!(大変だよ、お前さん=あなた)
なんでぇ、なんでぇ~、そんなに慌ててよ!(なんだい、なんだい)
日照り続きで埃がたた~な(埃がたつじゃないか)
ちょいと、吉原にあすび(遊び)に行ってくらぁ

現代語に無い独特の言い回しや、聞きなれないが非常に威勢の良い、昔の庶民の生活が目に見えてくるようで、とても面白かった。

落語を見ていて、ちょいと気になったことがあった。
なぜ江戸弁だと「大変だ」が「てぇ~へんだ」だと発音するんだ?
それと「遊び」が「あすび」と発音されたり、大工の棟梁(とうりょう)を「とうりゅう」とも発音していた。

この疑問に関して面白い発見をした。
それを説明するにはまず、韓国語の合成母音に関して書かねばならない。
合成母音とは、その名の通り母音を二つ(もしくは三つ)合体させる物だ。
ちょっと例をあげて説明してみよう。

下の最初のハングルは、日本語の発音の「お」に近いもので、次のハングルは「あ」に近いものである。
この「お」と「あ」を「おあおあおあ」何度も何度も繰り返してゆくと、いつの間にか「わ」に近い発音になると思う。


お+あ=わ

韓国語は普通の母音だけでも日本語の倍の10個も有るのに、さらに合成母音が11個あるのだから、合計で21もの母音が存在する。(反切本文参照
ただし「橋の下」で少し触れたように、表記が違う合成母音でも発音がほとんど同じになってしまう、もしくは特に意識しなくても構わない合成母音もある。

韓国語で「物」という意味の不完全名詞に「が」という助詞を付けた状態を以下のように書く

 geo-si:物が

このハングルの読み方は、アルファベット表記を見ていただければわかるように、日本語の「ゴシ」に近いものだ。
「物が」という単語は会話でしばしば合成母音化して発音される。
その際「物」という単語の下にある、漢字の「人」の様な形の「パッチム」は省略され、以下のような状態になる。


こ+い=け

最初に紹介した「お」と「あ」が「わ」になるのは理解できるのだが、個の合成母音は「け」に近い発音になってしまうのだ。
どうして?って韓国人に聞いたって誰も答えてくれない。
昔からそうなっているのだから・・・(-。-)y-゜゜゜

同じように「子供」という単語も、合成母印化して発音されるのだ。

 a-i:子供

 +  = 
あ+い=え

ここまで来れば、江戸弁の「大変だ(tai-he-n-da)」が「てぇ~へんだ(te-he-n-da)」になるのが、アルファベットでは説明できなくても、韓国語の合成母音で説明できてしまう。
ブラボー~!!
で?、何で「あ」と「い」が合成母印化されると「え」になるかって?

ちょっと話は飛ぶが、先日外人さんに道を尋ねられた。
「ホテル恵比寿はどこですか?」と言っているようだが、恵比寿はかなり離れている場所にあるはず。
私は「ここは●×で恵比寿はずっと先です」と言おうと思ったが、韓国語を一生懸命勉強していたので、英語が全く出てこない(。☆)\(-_-#
だが、その外人さんは「そのホテルは○×交差点の近くに有るはずだ」と主張している。
よくよくその外人さんの発音を聞いているとひらめいた!
「ホテルアイビス(ai-bis)だ!」

そうか、「あ」+「い」を続けて言うと「え」に聞こえるのだ。
通常「あ」の音を発音する時には、口を大きく開きながら「あ」と言うが、続けて「い」の発音をしようとすると「い」の唇の形に引っ張られて、あまり口を大きく開けないため「え」に聞こえたのだと思う。

次行ってみよう!次!(^_^ゞ

あぽ!」で触れたように、韓国語ではしばしば母音がひっくり返る事がある。
例えば「そして」という副詞は、通常以下のように表記し発音する。

 gu-ri-go:そして(クリゴ)

ところがソウル方言(本当は韓国の標準語のはずなのですが)では、単語の語尾の母音が上下ひっくり返り、下記のように発音されたりする。

 gu-ri-gu:そして(クリグ)

「棟梁(とうりょう=to-ryo)」が「とうりゅう=to-ru」になるのも「遊び(あそび=a-so-bi)が「あすび=a-su-bi」になるのも、もしかしたらこのような母音の逆転現象なのかもしれない。
なぜ母音を逆転させるのかって?
・・・・・・・(-“-)

韓国語が逆転する理由は聞いたことがある。
陽性母音が陰性母音に逆転すると、韓国人の耳には「かわいく」愛嬌があるように聞こえるそうだ。
だからなのか、女性は陽性母音を陰性母印化して発音することが多いようだ。
(「注2:母音変化によるイメージの変化」「注6:陽性母音と陰性母音」を参照)

はたしてこの二つの現象は、偶然の一致なのか?
それとも「ウラルアルタイ系」という、大元が同じ言語だから起こりうる事なのだろうか?
ただ落語を楽しむために行っただけなのに、なんだか凄いロマンを感じてしまうなんて、やっぱり僕はオタクなのだろうか?

<02/02/24>